新アラビア夜話
Blurb
『新アラビア夜話』は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンが1877年から1880年にかけて雑誌に発表した作品を纏めて、1882年にチャットー・アンド・ウィンダスより刊行された2巻からなるイギリスの短編集。スティーヴンソンの処女作も含まれており、この中の数篇はイギリス短編小説の伝統の先駆となったのみならず、彼の最高傑作であると見なす評論家もいる。第1巻は、当初は『Later-day Arabian Nights』と題されていた、1878年の6月から10月にかけてロンドン・マガジンに連載された7つの短編からなり、『自殺クラブ』の3篇・『ラージャのダイヤモンド』の4篇の2部構成になっている。当時のヨーロッパを舞台としているが、恰もアラビア人による原作を紹介しているような体裁をとっている。全篇を通してボヘミアのフロリゼル王子がストーリーに絡む。『自殺クラブ』は秘密組織を巡る物語、『ラージャのダイヤモンド』は世界で6番目と謳われるダイヤモンドを巡る物語である。
「クリームタルトを持った若者の話」
お忍びでロンドンのオイスターバーで飲んでいたフロリゼル王子と腹心のジェラルディーン大佐は、無料で店中の客にクリームタルトを配っている不思議な青年に話しかけられる。興味を持った2人は青年を夕食に招き、彼の口から「自殺クラブ」の存在を知る。2人は自殺願望者を装い言葉巧みに青年を説き伏せて、自殺クラブ会長と対面して入会を果たす。そこは理不尽な誓約で会員をがんじがらめにし、会合の夜毎トランプのゲームで殺される者と殺す者を1人ずつ選び出すという恐るべき秘密クラブであった。その夜「処刑人」に選出されたのはクリームタルトの青年だった。翌日の新聞で2人は死のカードをひいた犠牲者の「事故死」を知る。2人は再び会合に訪れ、クリームタルトの青年の懺悔を聞いた。その日スペードのエースが配られたのはフロリゼル王子だった。
「医者とサラトガトランクの話」
パリに滞在中の小心だが好奇心も強い若きアメリカ人観光客サイラス・Q・スカダモアは、美しい若い婦人から秘密めいた約束を持ち掛けられる。しかし明くる夜、指定の場所に彼女は現れず、落胆してホテルの自室に戻るとベッドに死体が横たわっていた。向かいの部屋に住む元ロンドンの開業医だったというノエル博士が異変を察知して部屋に入って来た。博士は茫然自失となっているサイラスから事情を聞くと、この巧妙に仕掛けられた罠に落ち、濡れ衣を着せられようとしている若者を助けようと申し出た。博士は部屋にあった大きなサラトガトランクに死体を詰め込んでロンドンまで渡航し、指定の場所に届ければ君は悩みから解放されると説明した。博士はジェラルディーン大佐と親交があり、サイラスはパリの謝肉祭見物に訪れていたフロリゼル王子一行に紛れて、税関に掛かる事も無くトランクと共にロンドンに到着した。
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